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会話文の右にページアイコンがある場合、マウスオーバーすると『発音と語彙』の説明をご覧頂けます。

1億を超える人口を有するフィリピンは、アジアで最も英語話者が多い国です。 しかし、フィリピンの人々の母語は国内に180以上あるといわれるフィリピンの土着語で、 英語は第二言語として用いられています。1987年に制定された憲法第4条第6-8項により、 フィリピノ語(Filipino)と英語がフィリピンの公用語に定められています。「フィリピノ語」は、 実際にはフィリピンで最も話され共通語となっているタガログ語(Tagalog)の標準形とみなされている変種で、 政治的な呼称です。 フィリピン人は日常生活ではタガログ語あるいはその他の土着語、公的な場面では英語、 というふうに言語を使い分けています。

アメリカの植民地時代(1898-1946年)では、アメリカがフィリピン全土に学校を設立して英語教育を積極的に行い、 1946年のフィリピン独立後も英語教育に力が入れられていたために、 現在、フィリピン人の約93%が英語を話すと報告されています。 しかし、フィリピン人の英語の話し方は千差万別です。

フィリピン英語の発音は、carやcartといった語で母音のあとの/r/を発音するR音性的な(rhoticあるいはr-ful) 英語で、標準アメリカ英語(一般米語)を規範としています。学歴と社会階層が高いフィリピン人は英語の習熟度が高く、 アメリカ英語の発音に近い発音で英語を話す傾向があります。 しかし、そうではないフィリピン人は、土着語(特にタガログ語)の影響を受けた発音で英語を話し、 外国人には理解が難しいといえます。 フィリピン英語に特有な発音は、ある程度以下のように一般化できます。 (なお、本モジュールの発音説明では、学歴が高く、アメリカ英語の習熟度の高いフィリピン人が話す英語を 「上層方言」、中くらいの英語を「中層方言」、低い英語を「基層方言」と呼んでいます。 以下の特徴は、基層方言に最も顕著な特徴です。また、フィリピン英語を「比英語」、アメリカ英語を「米英語」、 イギリス英語を「英英語」と記しています。以下の特徴は、比英語基層方言に最も顕著な特徴です。)

比英語基層方言に最も顕著な特徴

(1)/f/が無声両唇破裂音[p]の音で発音されることがあります。例えば、会話1の"the Philippines"の"Ph" /f/は[p]で発音されて「ピリピンズ」のように聞こえ、会話7の"photo"も会話24の"favorite"も語頭の/f/が[p]で発音されています。

(2)/z/は無声歯茎摩擦音[s]で発音されます。会話1の"Is"、会話12の"resort"、会話21の"These"、会話22の"days"など、/z/が[s]で発音される傾向が本モジュール全体を通して見られます。

(3)"th"の発音が有声/無声問わず、摩擦音ではなく歯茎破裂音[t]と[d]で発音されます。例えば、会話1の"that"や会話2の"then"の"th"は[d]で、会話21の"Thanks"の"Th"は [t]で発音されています。

(4)"pay"の/p/や"time"の/t/など、無声破裂音の気音は弱い傾向があります(会話3など)。

(5)母音の前の/r/がたたき音(弾音)[ɾ]で発音されることがあります。例えば、会話12に出てくる"dropping"と"agree"や会話17の"differently”と"wrong"の/r/はたたき音で発音され、日本語のラ行音と同じに聞こえます。

(6)"-ple"、"-cle"、"-ble"で終わる語は、子音の間に母音が入ります。例えば"simple"(会話4)が「シンポル」、"uncle"(会話6)が「アンコル」、"horrible"(会話31)が「ホリボル」のように聞こえます。

(7)"-ion"で終わる語の最後の音節が弱母音ではなく強母音で発音されます。会話12の"question"は「クエスチョーン」、"depressions"は「ディプレッショーンズ」、会話5の"onion"は「オニオーン」のように聞こえます。

(8)語末の子音連続では最後の子音が脱落します。例えば会話4の"post"や会話6の"project"の最後の/t/、会話4の"approached"や"asked"の過去形の語尾"-ed" /-t/が発音されていません。

(9)語アクセント(強勢)がアメリカ英語やイギリス英語と異なる音節に置かれることがあります。例えば、会話1の"wedding"と"married"、会話5の"garlic"、"ginger"の強勢は第2音節に置かれています。また、会話1の"yesterday"の第一強勢は、第3音節"-day"に置かれています。

(10)音節が時間的に等間隔に現れるリズムで発話されます。会話22の女性Aと会話18に登場する男性の話し方に特徴的です。(母語話者の英語は強勢が置かれる間隔をリズムの単位とします)。

フィリピン英語の語彙はアメリカ英語の語彙を基本としますが、タガログ語の語や表現だけでなく、 16世紀から19世紀末までのスペイン植民地時代の名残もあり、スペイン語の語や表現も入り込んでいます。 語彙の特徴には以下の主な傾向があります。

(1)タガログ語の語と表現 例えば、会話4では"kababayans"は「海外在住のフィリピン人のこと」、 “kilig”は「とても嬉しい」という意味です。また、会話6の"ate"は"sister"の意味で、 自分の姉や年上の女性に対して使う呼びかけの表現です。タガログ語の間投詞も入り込むことがあり、 例えば、会話40では目上の人に対して敬意を表す間投詞"po"が入り込んでいます。

(2)スペイン語の影響を受けた語と表現 "Kumusta?"は"How are you?"の意味で、スペイン語の¿Cómo está?から来ています(会話1、2など)。また、"barkada"は"close friends"の意味で使われています(会話1、19など)。

(3)英語の語であるがフィリピン英語特有の使い方 “CR”は “comfort room”の略で「トイレ」(会話6)、"brown out"が「停電」(会話11)、"bad trip"は不快や苛立ちの感情を表す「なんてことだ」という表現(会話37)として使われます。また、"dirty ice cream"は「フィリピンの路上で移動式の屋台で売っているアイスクリーム」のこと(会話8)を指しています。

(4)アメリカ英語の語の使用 アメリカ英語とイギリス英語で異なる語がある場合、アメリカ英語の語を使用します。例えば、 「ガソリン」は“gasoline”(会話29)、「フライドポテト」は“French fries”(会話27)を使っています。(イギリス英語では、それぞれ“petrol”と“chips”が使われます。)

8名のフィリピン人出演者たちが話す英語はかなり聞きやすいフィリピン英語です。 会話1の女性2名は中層方言、そのほかの6名は高学歴のエリート層で、 基本的に上層方言を話しますが、個人差があり、インフォーマルな場面では中層方言で話すこともあります。

(フィリピンの言語状況と言語政策についての詳細はこちら)

「1.挨拶する」から「20.人を紹介する」は、フィリピン英語特有の語彙や語法を多く含む会話です。 これに対して「21.感謝する」以下の会話は、基本的には他の英語会話モジュールと同じスクリプトで、 部分的に語彙や表現をフィリピン英語のものに変えています。

このページは科学研究費助成事業18H00695 『多様な英語への対応力を育成するウェブ教材を活用した教育手法の研究』(研究代表者 矢頭典枝(神田外語大学),研究分担者 川口裕司(東京外国語大学),斎藤弘子(東京外国語大学),吉冨朝子(東京外国語大学),梅野毅(東京外国語大学),関屋康(神田外語大学),小中原麻友(神田外語大学))による研究の一環として公開しています。

研究協力者:Shirley Dita、Chirbet Ayunon、Lysel Haloc、Marvin Casalan、Ariel Robert Ponce(デラサール大学)、 Ariane Macalinga Borlongan(東京外国語大学)、木村公彦(神田外語大学)、黒岩健人(慶應義塾湘南藤沢高等部)

出演者:Shirley Dita、Ariane Macalinga Borlongan、Chirbet Ayunon、Lysel Haloc、Marvin Casalan、Ariel Robert Ponceほか