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会話文の右にページアイコンがある場合、マウスオーバーすると『発音と語彙』の説明をご覧頂けます。

メキシコの地にスペイン語が「移植」されたのは今から約5世紀前、スペインによる征服から始まります。この歴史はスペイン語が公用語となっている他のラテンアメリカ諸国にも共通し、これらの国々がHispanoamérica「スペイン系アメリカ」と呼ばれるゆえんです。まず、こうしたラテンアメリカのスペイン語をスペインの標準的なスペイン語と比較した場合、一般的に次の特徴が挙げられます:

  • S音法(seseo):文字s, c(ce, ciの場合), zに対して唯一の発音/s/が対応し、発音/θ/は存在しない。
  • 複数の話し相手に対する待遇表現は唯一ustedes(動詞活用形は3人称複数)のみであり、親称の2人称複数形vosotrosとその動詞活用形が存在しない。
  • レ代用法(直接目的語が人間の男性の場合に、間接目的格人称代名詞3人称le、
    lesをlo、losの代わりに用いること)が存在しない。
  • 現在完了形に代えて完了過去(点過去)形を多用する。
  • 直説法未来形および過去未来形に代えて迂言形式〈ir a + 不定詞〉を多用する。
  • 再帰代名詞を多用する(regresar「戻る」に代えてregresarse、など)。
  • aquí「ここ」に代えてacá、allí「あそこ」に代えてalláを多用する。

いっぽう、メキシコは約1億2,700万人(2015年 国連推計)の人口を擁し、世界で最大のスペイン語話者数を誇る国です。面積は197万㎢と日本の5倍強にあたり、広大な国土に多くの人口をかかえ、さらには先スペイン期より約60種類もの先住民言語(征服者エルナン・コルテスが到来した16世紀初頭には100種類以上)が話されているメキシコのスペイン語には、その複雑な歴史過程も相まって地域的・社会的・民族的な方言差が存在するのが現実です。研究者により様々な方言区分が提唱されていますが、大まかに見て次の5地域に区別できます(カッコ内は代表的な州):

  • 北部(チワワ)
  • 中部(メキシコシティー)
  • 東部・南部の海岸部(オアハカ/ベラクルス)
  • 南東端部(チアパス)

本モジュールの出演者は概ねメキシコ中部の方言話者です。メキシコの標準語の規範は「スペイン語圏全域で教養階級の話者が手本にしている共通の理念的な規範に非常に近い」(三好2010: 83)とされ、日本人にとっては比較的わかりやすいスペイン語だと言えます。それでも会話モジュールのように口語ともなれば、メキシコ・スペイン語独特のイントネーションにより、スペインの標準語との違いにすぐに気づくことでしょう。発音から形態統語、語彙的な面においてメキシコ特有の語法はmexicanismo「メヒカニスモ」と呼ばれます。その中には多かれ少なかれ他のスペイン語圏地域にも存在する特徴でもありますが、とくにメキシコにおいて使用頻度の高い語法には次のものがあります([ ]内の数字は実際に会話モジュールに出現する機能番号を示します):

  • 縮小辞-itoの多用:ahorita「今」 [会話7]
  • 特定の指示対象をもたないleの多用:pásele「よってらっしゃい」[会話11],
  • nomás「…だけ」[会話14]
  • 前置詞hasta「〜まで(限界点)」の特殊用法「〜に(開始点)」
    :El doctor llega hasta[a] las siete.「医師は7時に到着します」
  • ボス法(主にチアパス州):より親しい話し相手に対して親称の2人称複数形túに代えてvosを用いる(動詞の活用形は、例えば直説法現在ではcantás[cantas]、
    comés[comes]、vivís[vives]となる)。
  • 特徴的な語彙:platicar “hablar, contar”「話す」[会話7],
    sale “vale”「オーケー」(会話7, 12, 15, 17, 19, 20, 42),
    camión “autobús”「バス」(会話5, 10, 14, 31, 32), tortilla
    “tortilla mexicana”「トルティーヤ(トウモロコシ粉で作った生地の薄焼き)」
    (会話13), limón “lima”「ライム」(会話8, 41), padre “bueno,
    bien”「良い、すばらしい」(会話26), gripa “gripe”「風邪、インフルエンザ」
    (会話26), bueno “oiga”「もしもし(電話の呼びかけ表現)」/ “dígame”
    「もしもし(電話の応答表現)」(会話19, 22) , mande “cómo”「何て言いましたか?(聞き返しの表現)」/ “diga”「何でしょうか(返答の表現)」。

「挨拶する」から「人を紹介する」は、メキシコ特有の語彙や語法を多く含む会話です。これに対して「感謝する」以下の会話 は、基本的にはスペインのスペイン語と同じスクリプトで、部分的に語彙や表現をメキシコ・スペイン語のものに変えています。両方を聴きくらべてみましょう(「41. 依頼する(2)」以降はメキシコ・スペイン語会話モジュールだけのボーナストラックです)。

参照辞書

Academia Mexicana de la Lengua, 2010, Diccionario de mexicanismos, Siglo XXI,
México.

Gómez de Silva, Guido, 2001, Diccionario breve de mexicanismos,
Academia Mexicana de la Lengua / Fondo de Cultura Económica, México.
[オンライン版 http://www.academia.org.mx/]

Lara, Luis Fernando (dir.), 2010, Diccionario del español de México,
El Colegio de México.
[オンライン版 http://dem.colmex.mx]

Real Academia Española, 2014, Diccionario de la lengua española, 23.ª ed.,
Espasa-Calpe, Madrid.
[オンライン版 http://dle.rae.es/]

Real Academia Española / Asociación de Academias de la Lengua Española, 2005, Diccionario panhispánico de dudas, Santillana, Madrid.
[オンライン版 http://www.rae.es/recursos/diccionarios/dpd]
高垣敏博(監修), 2007,『西和中辞典』, 第2版, 小学館.

参考文献

ジョン・M・リプスキ(浅若みどり他訳), 2003,『ラテンアメリカのスペイン語 —言語・社会・歴史—』南雲堂フェニックス.

三好準之助, 2006,『概説 アメリカ・スペイン語』大学書林.

____, 2010,『南北アメリカ・スペイン語』, 大学書林.